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初めておいでになった方は、「はじめに」を読んでください。


by umepochisky
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ASPARAGUS/Suzan PITT

『ASPARAGUS アスパラガス』SUZAN PITT スーザン・ピット
(VHS 58分 ダゲレオ出版)

アニメーションと聞くと、宮崎アニメかアキバ系か子供向けしか思い浮かばなかったのだけれど、アートアニメーションというジャンルもあるのだと、このビデオを観て知った。
娯楽ではなく、”表現”のためのアニメーションを初めて観たかもしれない。
スーザン・ピットは、アメリカ生まれの女性アーティストで、絵画、音楽家とのコラボ、オペラの舞台美術でも国際的に活躍(ジャケの解説より)。
このビデオには、表題作で彼女の代表作である「アスパラガス」の他、「ジェファーソン・サーカス・ソング」「ジョイ・ストリート」の計3作品が収められている。
個人的に、最後の「ジョイ・ストリート」が素晴らしかったので紹介したいのですよ。

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 「ASPARAGUS」(79年、18分)
〜アスパラガスのウンコをする女は、1人でパラレルワールドのような部屋にいる。窓の外には怪奇な巨大植物。女には、顔がない。女は、部屋に散らばっていた夢想を鞄に詰め、仮面をつけて劇場へ出かける。劇場は満員だ。緞帳の背後で女が鞄を開けると、女の夢想が劇場を飛び回る。女はこっそりタクシーに乗り部屋に戻る。そしてまた、独りでエロティックな夢想にふける。〜
ストーリーらしいストーリーはないのだが、だいたいこんな流れ。きっとこの女は、スーザン・ピット本人なのだろう。アーティストとしての彼女は仮面を被り、夢をばらまく孤独な作業を繰り返している。かどうかは分からないけど、そう感じた。劇場シーンでの粘度アニメ(実写)との合成の繊細な作業や絵の緻密さに、つい見入ってしまう。


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「JEFFERSON CIRCUS SONGS」(73年、16分)
異次元の世界の住人達(子供)が、人間の性をはじめとしたあらゆる営みのグロテスクさを見世物小屋で展開させている。台詞もストーリーもない作品で、実写の子供達と書割り、アニメーションを合体させて作り上げた実験映像のようなおもむき。グロテスクさと少女趣味のミックス具合が私好み。手作り感がチープでもあるし、良い塩梅の味わいでもあるが、映像としての評価は分かれそうですね。好きな人は好きだけど、嫌いな人は嫌いかな。

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「JOY STREET」(95年、24分)
〜薄暗い部屋の中で苛つく女。男に捨てられたのだ。来るはずのない電話を待つ女。たまらず自分から電話してみるが、むなしくコール音が響くだけ。タバコが増える。酒をあおって、ベッドに倒れ込む女……。女が寝室に消えた後、陶器の灰皿についていた飾りのネズミが命を持たされる。硬い陶器の体ではなく、柔らかく割れない体に喜ぶネズミ。女の寝室に行き、喜びを伝えるためか女に駆け寄る。しかし、ダラリとベッドから落ちた女の手首からは血が滴っていた。ウワンウワン泣くネズミの涙は洪水になり、女の死体を押し流す。涙の洪水に浮かぶ動物の死体と湧く虫。ひとしきり泣いて我に返ったネズミは、色を失い、人間と同じ大きさに成長していた。ネズミは女の死体を公園に運ぶ。死んだとは思いたくない一心で……。そして奇跡が起こる……〜
台詞はないが、こんな感じのストーリー。10年前の作品だけど、表現が洗練されるとはこういうことなのだなと、過去の作品と比較できたことで実感させられる。
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感心したのは、場面場面で画のタッチが変わるところ。冒頭の絶望的な女の心情表現には水彩画が用いてあって、酔いどれて頭がグラングランしているのを壁の動きで表現してあるところなんて、もう口あんぐり。そうそうそう、悪酔いした時って、こうなんだよねって言いたくなるほど女の心情がリアルに感じられる。
そして、ネズミが命を持って動き出すシーンは、アメリカンコミック調になってる。ネズミの写真は、ちょうど女の水彩画のシーンとネズミのアメコミ調が重なったところ。テーブルから落ちても割れない体に気付いたネズミの喜ぶ動作が、アニメでこんな巧みな動きを見た事がないくらい。”喜び”を表現するのに、これを上回る動きはないだろうな。すごいな。
公園で、死んだはずの女に奇跡が起こり、極彩色の熱帯ジャングルが展開されるのだが、そこは油彩画というか、また違うタッチのアニメーションになっている。写真のゴリラは、花の香りを嗅いで白目を剥くのだが、その白目が真っ白じゃなくて黄色く濁っているのが、この作家さんの素敵なところ。

エンターティメントじゃないので観て面白いってものでもないんだけど、自分のアニメに対する認識を覆した作品でした。アニメって、絵画もあり、演劇でもあるのだなと。絵画を鑑賞するつもりで観てください。
by umepochisky | 2005-08-09 19:17 | オススメモノ